算数の周辺
ジャグリングと数学
増田和悦
「345(さんよんご)できる?」
「345はむずかしいよ。441(よんよんいち)なら簡単」
アヤシイ数字がとびかっていますが、実際の会話です。
わかる人にはわかる、むふふな内容なのです。
いったいなにを話しているのでしょうか。
これからその謎を解いていきましょう。
「441」「345」とは?
441 を並べて、次のように矢印を書きます。
4 4 1 4 4 1 4 4 1 …
4 の数字からは、4つ先の数字に向かって矢印を書きます。
1 の数字からは、1つ先の数字に向かって矢印を書きます。
「345」も、同じように矢印を書いてみます。
3 4 5 3 4 5 3 4 5 3 …
よく見ると、どちらも矢印の行き先がぶつかっていませんね。
このことがとても大切なのです。
どんな数字の並び方でもいいわけではありません。
たとえば「533」だとぶつかってしまいます。一方、
ぶつからない例には、「51」「123」12345」「1234567」
「1357」「531」「7531」「7571」
「75751」……があります(95年10月号の学力コンテストに関連問題を出しました)。
これらの並び方には、何か規則性があるのでしょうか。
その話はちょっと置いといて、
ひとまず、この数字がジャグリングとどう結び付くのか
を説明しましょう。
ジャグリング
ジャグリングというのは、ボールや棒
などをお手玉のように投げることです。
ボール 3 個なら、少し練習すれば
できるようになります。4個、5個、6個 となると…。
今の世界チャンピオンは、
なんと、ボール 12 個でお手玉ができます。
いきなり 12 個と言われても、手に持つだけで大変です。
まずボール 3 個の話から始めます。
右、左、右、左、…
お手玉の投げ方を知っていますか?
多分次の投げ方を思い浮かべるでしょう:
「右手で投げたのを左手で取って、それを
右手に渡して、それをまた投げて…」
ボールがくるくる回ります。
これももちろん一つの投げ方ですが、
ほかにも、いーっぱい投げ方があるの
です。その一つが「441」です。
表を見て下さい。
ここでは、右手、左手、右手、左手と、交互にボールを投げると
考えますから、441441… を上下交互にずらして書き込みます。
矢印も前と同じように書き込みます。
時刻 1 2 3 4 5 6 7 …
右手 4(ア) 1(ウ) 4(オ) 4
左手 4(イ) 4(エ) 1(カ)
数字はボールを次に投げるまでの間隔を表し、
矢印の先のところでまた投げるのです。
「矢印がぶつかる」と、
ボールが2個同時に飛んでくることになり、
ジャグリングができないですね。
(図略)
図は、右手に2個、左手に1個持った状態から「441」で
お手玉する様子です。
ボールの動きを、表と見比べてください。
さて、理屈の上では、矢印に従ってボールを投げれば
お手玉ができることがわかりました。このように数字で投げ方を表したものを、
「サイトスワップ」と呼びます。
「441」を先に説明しましたが、「441」を練習する前に、「3」
(33333…)を練習してください。これがいちばん基本的な投げ方です。
表は簡単だから、自分で書いてみてくださいね。
右手に2個、左手に1個持って始め、図のようにボールを投げます。
(図略)
空中にあるボールは 1 個です。それが落ちて来る直前に手の中のボールを投
げて、その代わりに、落ちてきたボールを受けます。それの繰り返しです。簡
単でしょ?(言うだけなら)
ちなみに、前に書いた、ボールがくるくる回る投げ方は、ボール3個なら
「51」にあたります。表を書いて調べてみてくださいね。
矢印がぶつからないためには?
実は、次のようにすると、表を書かずに調べられるのです。
(a) 「7531」の場合
7+0, 5+1, 3+2, 1+3 をそれぞれ
4(数字の個数)で割った余りを
並べると、
3、2、1、0 です。4 つの余りの中に同じものが出て来ないので、
矢印はぶつからない。
(b) 「428」の場合
4+0, 2+1, 8+2 を 3 で割った余りを並べると
1、0、1 で、1 が2個あるので、だめ。
なぜこの方法で調べられるか説明します。いよいよ核心に迫ります。
428428428… と横に並べるかわりに3列に
並べて、矢印を書きます。各列には
0、1、2 と番号を付けます。
すると、
4+0, 2+1, 8+2 を 3 で割った余り 1, 0, 1 は、
矢印の行き先の列の番号を表します。1 が2個あったから、1の列
に行く矢印が2つあります。初めの3本の矢印はぶつかっていませんが、
太線の矢印が、8から来る矢印とぶつかってしまいます。このように、
矢印の行き先が「同じ列」であれば、必ずどこかでぶつかってしまい、(a)のように
別々の列だったら、ぶつからないということなのです。
この判定法を知ると、さまざまな投げ方をすぐに作り出すことができます。
例えば、「441」に対して、各数字から3を足したり引いたりしてもかまいません。
なぜなら、
0, 1, 2 を足して3で割った余りは変わらないからです。こうして
741, 411, 771 などが作れます。「7531」だと、4を足したり引いたりしても
かまわないので、3531, 7131, 7571 などが作れます。
また、サイトスワップでは、「数の平均がボールの個数である」という事実が
知られています。「441」や「7571」だと、
(4+4+1)÷3=3, (7+5+7+1)÷4=5
という計算で、ボール3個、5個を使う投げ方だとわかるのです。
お手玉するコンピュータ
現実には、数字の並びからボールの動きを知るのは
なかなか大変です。
そこでコンピュータの登場です。数字を打ち込むとそれを実演表示してくれる
プログラムがあるのです。
とても練習には便利で、私もよく使ってます。
しかし、そのプログラムには間違いがあるのです。
それは、「絶対ボールを落とさないこと」
です。
(ますだ かずよし、「大学への数学」編集部)
WWW:http://www.jah.or.jp/~emda